猫額の手帖

猫の額ほどの小さな物語を紡いでいます。

はじめまして。

はじめまして、つんです。

 

『猫額の手帖』というタイトルで、まとまりのないお話を書いていこうと思います。

 

語り手の「私」のまわりにある不思議な世界と、残酷な現実。ほころびを縫いながら生きることの難しさに苛まれる。

 

たどり着く場所があるのかわかりませんが、日常を呟くように、歩んでいきます。

 

よろしくお願いいたします。

#Twitter300字ss 第48回「霧」『岐路、もしくは幕間』

#Twitter300字ss 第48回「霧」『岐路、もしくは幕間』

 霧雨に立つ古びた教会で祈りを捧げていた。
(主よ、我らが父よ、何故)
 冷たい床へ繋がる膝は震え、胸の前でかたく握る手には力がこめられている。
(何故、私なのですかっ)
 三年を病床で過ごした母を亡くし、やっと我に返ったときには「残念ですが」と医師から宣告を受けるはめになっていた。努力は報われるだのなんだのと、まわりに押し込められた時間は、自分の命を縮めただけだった。
「用事は済んだかい?」
 悪魔は愛らしい黒猫の姿で囁いた。行き先が地獄なら救いなど求めるのは無駄だ。だらりと両手をおろして十字架を見上げる。悲劇的な人生には必ず涙の最後を添えなければならない。
 雲の隙間から光がさす頃、そこはただの公園に戻っていた。

#Twitter300字ss 第47回「食べる」『チョコレート文明』

#Twitter300字ss 第47回「食べる」

『チョコレート文明』

 秋のコンビニは魔物だ。帰宅したテーブルへ新作のチョコレートを並べ、インスタントコーヒーを淹れる。心構えをして正座で祈る。
「いただきます」
 透明のフィルムをはがすと甘い香りがする。まずはヘーゼルナッツ入りを。ミルクチョコに混ぜたナッツの食感がいい。滑らかな至福へ到達できる。次はマロン味のもの。香りが弱く渋さが前に出ている。コーヒーで味覚をリセットした。老舗お菓子メーカーは、厳選したカカオ豆を使ったタブレット。丁寧につまんで舌の上へ。鼻孔へ抜けるビターと、ゆっくりとろけるミルク。これだ。プロが試行錯誤で配合率を決め、商品化となったこのチョコレートこそ、芯から満たしてくれる。
 私が夜へ溶けていきそうだ。

#twnvday 9月14日

#Twitter300字ss 第46回「秋」 『対岸のひと』

#Twitter300字ss 第46回「秋」

 

『対岸のひと』

 

 病床の窓から見える川縁で赤一面に咲く彼岸花。その上を歩いて母が迎えに来るようで恐ろしい。一週間の入院生活は気が滅入る。
(心配してあげてるのよ)
 首筋へ冷たい風が流れた。嫌なものがあちこちにいて悪寒がする。耳障りな声色が鼓膜にべったりと張りつく。パートナーが持たせてくれた御守りがあったはず。ベッドサイドの引き出しを開けると、私の手首のサイズに合わせ直した形見の腕時計が入っていた。
(心配してあげてるのよ)
 押し付けられる母性が嫌いだった。世間的な親孝行をしてやるれるはずもなく、最後までわかりあえずに旅立ちを見送った。赦されることはない。それでいい。
 腕時計を丁寧にハンカチでくるんで、引き出しを閉じた。

#Twitter300字ss 第45回「帰る」 『おかえりなさい』

#Twitter300字ss 第45回「帰る」

『おかえりなさい』

 汗ばんだ背中が不快で、ミントティーをマグカップへ淹れる。猫達の落ち着かない様子を見ると、よくないものが近くにいるらしい。マリアの描かれたメダイのブレスレットを手首にはめる。
 カチャン。小さな音を立てて玄関の鍵が開く。同居人が帰宅する時間だ。
「何だか息苦しいね」
 ドアの隙間から聞こえる声にノイズが混じる。彼の中には悪魔が居る。祓い方を間違えば命に関わるので、手出しが出来ない。
「おかえりなさい。まずは美味しい紅茶かな」
 玄関で両腕を広げる。拒んで嫌って、彼を失うことが恐ろしい。私の命をあげるから、私の胸へお帰り。ぼんやりした足取りで歩み寄り、されるがままの体を抱きしめる。大丈夫。何度でも唱えてあげる。

#Twitter300字ss 第44回「約束」 『猫、帰る。』

#Twitter300字ss @Tw300ss

第44回「約束」

 

『猫、帰る。』

「こんばんは、お世話になった猫です」
 五連勤の最終日を終電であがり、上着を脱いだところへ女性は現れた。理解が追い付かない間に部屋へ上がりこまれる。チェーンはかけたまま。怪奇か過労かどちらにせよ正常ではない。
「お風呂ですか」
 察しが早くてありがたいが、疲れの方が身体にまとわりつく。話の前にシャワーを浴びてしまおう。何かあったら潔く死のう。
 さっぱりしてTシャツ短パン姿で戻ると、ベッドで黒猫が寝息をたてている。そうだった、お前は勝手に居着いて勝手に死んで、今度会えたら高級猫缶を食べさせてやると泣いたんだ。
 財布と鍵を掴んで部屋を飛び出す。十年昔に死んだんだから、知らないだろ。いまはちゅーるがあるんだぞ。