猫額の手帖

猫の額ほどの小さな物語を紡いでいます。

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#Twitter300字ss 第57回「演じる」

#Twitter300字ss 第57回「演じる」『七年私怨』 魂は合っている。 一筋に照らされたステージの上、ライブ用の黒の法衣で木魚を鳴らす。宗派や階級にとらわれず聴いてほしかった。 「七年続く私怨の綴り今日で終わらし祓しましょ」 (いけいけ浄土の蓮の池!) …

『リボン』

「これ、試着してもいいかしら」 梱包をといた後の紫色のリボンを見つけて、小さな妖精が問いかけてきた。猫じゃらしになるだけなので了承すると、くるりと回り体に巻き付けていく。妖艶で美しい。スマートフォンのカメラを構えたくなるが、そもそも写らない…

『試しの行為』

銀のスプーンが綺麗に磨かれた横で、木くずを入れられたホットミルクが冷めていく。我が家には先日からコボルトという妖精がいる。ブラウニーやシルキーと比べいたずら好きで、ひとつ良いことをしてひとつ迷惑なことをする。叱るべきかわからず悩んでいると…

#Twitter300字ss 第39回「試す」

#Twitter300字ss 第39回「試す」2回目の参加です。#猫額の手帖 と同じ世界の妖精が出てくるお話です。よろしくお願いします。 『リボン』ジャンル・オリジナルhttp://nekobitainote.hatenablog.com/entry/0203tw300ss01 『試しの行為』ジャンル・オリジナルh…

『ユールの仕度』

ユールは日本の冬至にあたる。太陽が再び強いエネルギーを持つその日、いつも見かける黒いものも一段と闇が濃い。 クリスマスのリースを飾り終え、人間のご馳走と妖精への感謝のメニューを考えていた。 カーテン越しの日差しが暖かい。 記憶の中の小さなツリ…

#Twitter300字ss 第38回「贈り物」

#Twitter300字ss 第38回「贈り物」初参加作品です。よろしくお願いいたします。 『穏やかでありますように』ジャンル:オリジナル作品リンク:http://nekobitainote.hatenablog.com/entry/1202tw300ss01 『ただそこに在るもの』ジャンル:オリジナル作品リン…

『ホットケーキ』

同居人とささいなケンカをした。彼が他の女性と親しそうに話をするのが嫌だった。謝るタイミングを逃し、眠れずにリビングの床でうずくまる。 気が塞ぐ。きっと寒さと空腹のせいだ。エプロンをつけ、慣れた手つきでホットケーキを焼き上げる。その香ばしさは…

『ただそこに在るもの』

特別なことはない。プレゼントはお礼みたいなものだから。 いつもより少し高いケーキを買った日は、アンティーク製の小皿におすそわけを移し、猫たちの手の届かない戸棚へそっと置いておく。 翌日、目が覚めてからカーテンを開くと、妖精たちがそれぞれの薄…

『穏やかでありますように』

図書館までの道中、手入れされた鉢植えの並ぶ一軒家がある。なかでもラベンダーには春の残光が宿る。やわらかな香りに顔を寄せると、老婆が微笑んでいた。ニットの襟から見える首の細さに、去年亡くした母を重ねる。「夫が先立って三十年も一人だったけど、…