猫額の手帖

猫の額ほどの小さな物語を紡いでいます。

『リボン』

「これ、試着してもいいかしら」
 梱包をといた後の紫色のリボンを見つけて、小さな妖精が問いかけてきた。猫じゃらしになるだけなので了承すると、くるりと回り体に巻き付けていく。妖艶で美しい。スマートフォンのカメラを構えたくなるが、そもそも写らないのだと自分をなだめる。
「とてもお似合いですよ」
 微笑みかけると彼女は嬉しそうに踊り始める。指先までなめらかにしならせると、ほのかな芳香が広がる。スミレだ。昨今の寒さに肩をすくめすぎて、慢性化していた頭痛が和らぐ。思いがけず恩恵を受けたので、素敵なリボンはそのまま持っていってもらうことにした。
 春が近づいて、花の妖精が動き始める。賑やかな季節を迎える準備をしようか。