猫額の手帖

猫の額ほどの小さな物語を紡いでいます。

『試しの行為』

 銀のスプーンが綺麗に磨かれた横で、木くずを入れられたホットミルクが冷めていく。我が家には先日からコボルトという妖精がいる。ブラウニーやシルキーと比べいたずら好きで、ひとつ良いことをしてひとつ迷惑なことをする。叱るべきかわからず悩んでいると、張り詰めた空気に変わる。
(裏切り者)
 幻聴だ。足早に和室へ行くと伏せてあるはずの遺影と目が合う。
「きしし」
 笑い声が聞こえ、低い口調で返した。
「あなたとは共生できない」
 子供の癇癪のようにどたどたと足を踏み鳴らす。どこまでなら許されるか試したのだろう。がしゃんっ、と窓が開いて冷たい風が部屋へ押し寄せる。悪意の前で笑える私はもう居ない。身震いをしながら呼吸を整えた。