猫額の手帖

猫の額ほどの小さな物語を紡いでいます。

#Twitter300字ss 第42回「遊ぶ」 『いきる、おんな』

#Twitter300字ss 第42回「遊ぶ」

『いきる、おんな』

 カフェに買い物にカラオケに。大型連休を女友達とそれらしく遊び歩いて、帰りの電車を待っている時だった。向かいのホームに立つ若い女性の、真っ赤なエナメルのパンプスに目を奪われる。
「お前、女捨てたのかよ」
 同棲一年の記念日に放たれた、恋人の辛辣なセリフを反芻する。うなだれて見下ろす私の足元は、真冬の豪雪に備えて買った子供用の防水ブーツ。のっぺりした黒のおでこには遊び心なんて見つからない。
 私、ここで終わるのかな。手抜きしてきた訳じゃないけど、本気かどうか聞かれたら、わからない。
 下腹部から不安が膨れ上がる。電車に遮られて、あの赤はもう見えない。危険信号を鳴らされたように、足が勝手に走り出していた。