猫額の手帖

猫の額ほどの小さな物語を紡いでいます。

#Twitter300字ss 第42回「遊ぶ」 『おんな、あそび』

#Twitter300字ss 第42回「遊ぶ」

『おんな、あそび』

 なめらかな白い背中は、ブラジャーのホックをつけて肩紐を合わせる。毎日行う動作でも、彼女の所作は美しかった。
 三十を過ぎた私の背中なんて、ぶよぶよにむくんで、家事のあれこれで凝り固まって、試着もしないで適当に買ってるブラジャーで、無理矢理女を飾っている。
「もっと『女』を楽しんだらいいのに」
 悪女のルージュみたいに真っ赤なパンプスへ爪先を押し込める「女」に、残念そうな眼差しで見下ろされる。そうだね、とだけ返事をして、さっきまで溶け合っていた指を絡めた。
 若いあなたの理想の人は、端整でとても綺麗なんだろうね。でも、完璧じゃないから私は遊びやすいんでしょう。
 次に会う約束だけをして、今日は終わる。