猫額の手帖

猫の額ほどの小さな物語を紡いでいます。

#Twitter300字ss 第44回「約束」 『猫、帰る。』

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第44回「約束」

 

『猫、帰る。』

「こんばんは、お世話になった猫です」
 五連勤の最終日を終電であがり、上着を脱いだところへ女性は現れた。理解が追い付かない間に部屋へ上がりこまれる。チェーンはかけたまま。怪奇か過労かどちらにせよ正常ではない。
「お風呂ですか」
 察しが早くてありがたいが、疲れの方が身体にまとわりつく。話の前にシャワーを浴びてしまおう。何かあったら潔く死のう。
 さっぱりしてTシャツ短パン姿で戻ると、ベッドで黒猫が寝息をたてている。そうだった、お前は勝手に居着いて勝手に死んで、今度会えたら高級猫缶を食べさせてやると泣いたんだ。
 財布と鍵を掴んで部屋を飛び出す。十年昔に死んだんだから、知らないだろ。いまはちゅーるがあるんだぞ。