猫額の手帖

猫の額ほどの小さな物語を紡いでいます。

#Twitter300字ss 第45回「帰る」 『おかえりなさい』

#Twitter300字ss 第45回「帰る」

『おかえりなさい』

 汗ばんだ背中が不快で、ミントティーをマグカップへ淹れる。猫達の落ち着かない様子を見ると、よくないものが近くにいるらしい。マリアの描かれたメダイのブレスレットを手首にはめる。
 カチャン。小さな音を立てて玄関の鍵が開く。同居人が帰宅する時間だ。
「何だか息苦しいね」
 ドアの隙間から聞こえる声にノイズが混じる。彼の中には悪魔が居る。祓い方を間違えば命に関わるので、手出しが出来ない。
「おかえりなさい。まずは美味しい紅茶かな」
 玄関で両腕を広げる。拒んで嫌って、彼を失うことが恐ろしい。私の命をあげるから、私の胸へお帰り。ぼんやりした足取りで歩み寄り、されるがままの体を抱きしめる。大丈夫。何度でも唱えてあげる。