猫額の手帖

猫の額ほどの小さな物語を紡いでいます。

#Twitter300字ss 第57回「演じる」

#Twitter300字ss 第57回「演じる」

『七年私怨』

魂は合っている。
一筋に照らされたステージの上、ライブ用の黒の法衣で木魚を鳴らす。宗派や階級にとらわれず聴いてほしかった。
「七年続く私怨の綴り今日で終わらし祓しましょ」
(いけいけ浄土の蓮の池!)
 ファンは施無畏印与願印の合いの手をくれる。
「暗く底無く苦楽の闇の奈落の花よどこへ咲く」
(お前の為に俺が泣く!)
古今東西あらゆる神にすがる荒魂鎮めましょ」
(そのタピオカは数珠じゃねぇ!)
 ぽぉーんっ
 ひときわ大きな音が会場を包み、皆が合掌する。現代社会のストレスの中で雑念は消せない。少しでも穏やかであるように、私は演者となる。
「ありがとう」
 逝き先を見失っていた霊魂は今宵、正しい道へと導かれて旅立ったようだ。

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『猫又が転生したら人間だった件(予定)』

しっぽがふたつに割れて悟った私は、ご飯の器を風呂敷で包む。旅は身軽が一番だ。みっともない寝顔へおでこをすりつけ、そのにおいを最後に吸い込んだ。
(さようなら)
 からら、と窓を開いた音で、背後の人物が体を起こす気配がする。振り返ってはいけない。猫を演じた十七年が無駄になる。
「左手が疼く!」
 奇声とともに投げられたのは、詰め放題のきゅうりがごとく、ジップロックにみっしり入ったとびきりちゅーる。
「猫又が転生したら人間だった件、かぁ。悪くないなぁ」
 転生ものは流行りだね、そうだね。次は貴女の子供に生まれてくるよ。
(またね)
 ぱんぱんになった風呂敷を背負い直し、ぽろぽろ涙をこぼしながら、懐かしい部屋をあとにした。