猫額の手帖

猫の額ほどの小さな物語を紡いでいます。

『ホットケーキ』

 同居人とささいなケンカをした。彼が他の女性と親しそうに話をするのが嫌だった。謝るタイミングを逃し、眠れずにリビングの床でうずくまる。
 気が塞ぐ。きっと寒さと空腹のせいだ。エプロンをつけ、慣れた手つきでホットケーキを焼き上げる。その香ばしさは同居人を眠りから覚ました。
「もう一枚焼くよ」
 顔も向けずフライパンを持ち、夜の微睡みの妖精に囁く。
(ふっくらのおまじないをかけてください)
 蜂蜜を小皿に分けて戸棚へ置く。贈り物を受け取った小さな人は、コンロのまわりでくるくる踊る。満月が湯気を立てて現れると、笑顔がとろけた。
「ごめんな、気をつけるよ」
 二人で平らげた皿の綺麗さに、くすくすと笑い声が聞こえる。

 

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#Twitter300字ss 第38回「贈り物」

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