猫額の手帖

猫の額ほどの小さな物語を紡いでいます。

2017-12-10から1日間の記事一覧

#猫額の手帖010

カモミールとタイムを合わせたバスソルトを湯船に入れる。昨日から鼻がむず痒く、今日はだるさもある。あまり具合がよくない。水の精霊が「ローストか?スープか?」と訪ねてくるが、あいにく私は食用肉ではない。カーディガンのボタンを外しながら、脱衣場…

#猫額の手帖009

ベランダで育てているハーブの葉を一枚もらっていいかと、立派な角のトナカイに聞かれた。「どうぞ」共有者の許可を得ていないが大丈夫だろう。渡した後で気がついた。そうか、トナカイ。今年はまだプレゼントの用意がない。ショーウィンドウで見かけたあの…

#猫額の手帖008

妖精は光り物が好きらしい。商店街の大きなツリーにライトが灯れば、ひとつふたつと淡い光が瞬く。よく見るとそれは、小さな人をかたどっているとわかるが、この賑やかさで気づく人間はほとんどいない。気づいてしまった私は、躍りの輪へ誘われている。タイ…

#猫額の手帖007

意識や気持ちをひとつの場所に集中させると、そこからダメージを受けたとき、取り返しがつかないほど心を折られてしまう。モノクロに閉じ込められた時期の私はすべてが怖かった。悪意を積みあげた壁を叩いても、血がにじむだけだった。世界に慈悲も救いもな…

#猫額の手帖006

集合ポストの中にギフト用の包装紙が見える。差出人は久しい友人だ。ばたばたと帰宅して靴を放り投げ、何故か正座をしながら封を開けた。小さな星形のキャンドル。金平糖柄の便箋には、気遣いの言葉が並んでいる。火の妖精がちらちらと集まりだした。今夜は…

#猫額の手帖005

電車の窓から見える景色は無機質で、どうやって妖精たちが生き延びてきたのか、不思議だった。「あなたが見なかっただけよ」空いた席へ座ると膝の上に光を見つける。小さな手を叩き、開いた小説の続きを催促する。色を失っていたのは私の方だろう。ゆっくり…

#猫額の手帖004

あなたのぬくもりを思い出すには、自販機で買ってから15分経ち、ぬるくなったミルクティーのペットボトルがちょうどいい。冷え症のてのひらで私の頬を撫でる。お互いに言葉足らずで、衝突してしまうけれど、伝わる体温は確かに共有され、その時ばかりは世…

#猫額の手帖003

ゴブリンが台所から走り去る後ろ姿を見て、今夜のチーズグラタンをあきらめる。彼らの悪戯癖には何度も負けていた。オーブンレンジの残り時間はさだかではなく、焼き直しするのには手間がかかりそうだ。同居人の帰宅には間に合わせたい。#猫額の手帖 — つん …

#猫額の手帖002

いつかまた逢いましょう。哀しみを胸に、凛とした背中を見送った。赦されるなら、あの人の幸せを願う。私の慰めを祈り続けた、たったひとりの友を。ひとまわり大きな月夜にそよぐ妖精よ、ヒイラギの葉を一枚、届けて。彼女を痛むすべてのものから、守れるよ…

#猫額の手帖001

ポプラの木を寝床にしている妖精は、風のものらしい。母が存命だった頃、そのような話をいくつか聞いたはずだが、幼心とともにサラマンダーに焼かれて食われたのだろう。いまは思い出そうとするだけで頭痛がする。鎮痛剤を口へ放り、ブラックコーヒーを飲み…