猫額の手帖

猫の額ほどの小さな物語を紡いでいます。

#Twitter300字ss 第48回「霧」『岐路、もしくは幕間』

#Twitter300字ss 第48回「霧」『岐路、もしくは幕間』

 霧雨に立つ古びた教会で祈りを捧げていた。
(主よ、我らが父よ、何故)
 冷たい床へ繋がる膝は震え、胸の前でかたく握る手には力がこめられている。
(何故、私なのですかっ)
 三年を病床で過ごした母を亡くし、やっと我に返ったときには「残念ですが」と医師から宣告を受けるはめになっていた。努力は報われるだのなんだのと、まわりに押し込められた時間は、自分の命を縮めただけだった。
「用事は済んだかい?」
 悪魔は愛らしい黒猫の姿で囁いた。行き先が地獄なら救いなど求めるのは無駄だ。だらりと両手をおろして十字架を見上げる。悲劇的な人生には必ず涙の最後を添えなければならない。
 雲の隙間から光がさす頃、そこはただの公園に戻っていた。