猫額の手帖

猫の額ほどの小さな物語を紡いでいます。

『ユールの仕度』

 ユールは日本の冬至にあたる。太陽が再び強いエネルギーを持つその日、いつも見かける黒いものも一段と闇が濃い。
 クリスマスのリースを飾り終え、人間のご馳走と妖精への感謝のメニューを考えていた。
 カーテン越しの日差しが暖かい。
 記憶の中の小さなツリーは蹴飛ばされ、泡立てていた生クリームのボウルもテーブルから弾かれた。
「私が死ぬのがそんなに楽しみなの!?」
 母の声に意識を切り裂かれ、体が跳ねる。うたた寝をしていた。開かれたページにローズマリーの妖精は座り、香りの良い葉に赤いリボンを巻いて、こちらへ差し出す。かぼちゃのシチューが気になるらしい。
 小さなプレゼントを受け取ると、レシピを一緒に覗きこんだ。

 

----- ----- -----

#Twitter300字ss 第38回「贈り物」

企画参加作品