猫額の手帖

猫の額ほどの小さな物語を紡いでいます。

2018-01-22から1日間の記事一覧

#twnvday 1月14日

ドーナツにはなぜ穴があいているのか。二杯目のカフェオレを注いでもらい、他愛ない疑問で時間をつぶす。そろそろ閉店時間が迫っていた。隠し事をしている恋人のそっけなさが嫌だ。今日こそは問い詰めてやろう。入り口に見慣れたスーツ姿を見つけ、構えたド…

#猫額の手帖061

自分の中で溜まっていく、どろりとした黒くて汚い気持ち。妖精は敏感に悟る。善きものは癒しを与える。悪いものは虚ろへ引きずり込む。いつまでも記憶に繋がれて、痛みを鮮明に思い出しては、何が正しかったのか問いかける。答えは出るはずがなく、外れない…

#猫額の手帖060

現実からは逃げられない。どんなに笑っていても、どんなに幸せでも、私の心に黒いものが寄り添って離れない。これは悪魔なのかと問いかけた。けれど返事はなく、それよりもたちが悪いことだけしかわからなかった。私が負けないように、私はへらへら笑え。最…

#猫額の手帖059

同居人との暮らしにはルールがある。「楽しくご飯を食べること」喧嘩しても、怒っても、悲しくても、ふたりでいただきますを言うときには、笑っていようと決めた。すぐ機嫌が悪くなる私に手を焼いていた彼は、根気強くそばに居てくれた。どれほどの感謝も足…

#猫額の手帖058

昨日降った雨のおかげで、久しぶりに湿度のある空気を吸う。少しだけ地面に日が射すと、妖精たちが楽しそうに泳ぎだす。新しい大気は彼らの力の源泉だ。ゆるやかなメロディーに乗り光が近づく。そっと手を引かれる感覚がして、慌てて歩き出す。誘われてはい…

#猫額の手帖057

ウクーが眠そうに耳を動かす。そろそろ同居人が帰ってくる時間だ。気難しい彼女のお気に入りは、あまり動物が得意ではなかったはずなのに、いつの間にか立派に下僕を務めている。「まだかしら」「もうすぐだよ」夕飯の支度をしながら返事をする。それははっ…

#猫額の手帖056

穏やかな気持ちの為に自分を甘やかす。人混みを抜けてたどり着いた店は、ちょっと穴場だ。階段を下るとすぐに席へ通された。メニューを眺めて少し悩み、注文する。薄暗い店内で囁くような会話が流れる。テーブルへ置かれたフレンチトーストを満面の笑みで迎…

#猫額の手帖055

実に良くない。つい買ってしまった焼き菓子を頬張る。アーモンドがたっぷりかかっていて美味しい。あと一口、というところで何とか手を止められた。このままでは夜の体重計が恐ろしい。ペーパーに移して戸棚へ置いた。お礼はいいからと胸中で言うと、妖精は…

#猫額の手帖054

小さいパウンドケーキを買った。食べ過ぎてダイエットが失敗するのは怖いが、我慢してストレスが溜まるのも嫌だ。これくらいは丁度いい。猫たちが静かに寝ている隙に食べてしまおう。いつもの戸棚を開いた所にある小皿へ切り分けたケーキを置いた。ブラウニ…

#猫額の手帖053

珍しいお茶をもらった。淹れたては透き通った青色で、レモンをたらすとピンク色へ変わるのだ。ハーブティーは嗜む程度だが、これは面白い。一人であれこれやり過ぎてカップがいっぱいになっていた。気づけば香りに誘われた妖精がちらほらと部屋にいたので、…

#猫額の手帖052

週末の疲れが表面化する。補充したバスソルトを眺めても気力がわかない。こういう時はぐだぐだに自分を甘やかすのが一番だ。ダウンジャケットをはおり、財布とスマホと鍵だけを持つ。駅前のケーキ屋さんへ飛び込んだ。さっと選んで会計を済ます。二人と妖精…

#猫額の手帖051

部屋の換気をする為に窓を開けると、妖精がベランダの柵に座って泣いている。冬に備えて揃えたレモンバームの葉をなくしてしまったらしい。慌てて台所の戸棚を探し、ハーブティーの箱を見つける。ローズヒップもおまけして差し出すと、あたたかく光り、頬に…

#猫額の手帖050

布団を開くとそこには猫がいた。昼間に干した羽毛布団に埋もれているのは、お姉さん猫のウクーだ。だいぶ高齢になり、冬は風邪をひかせないように大切に扱っている。まるで子猫のような顔をしていたので、思わずくすりと笑ってしまった。「気持ちは子猫よ?…

#猫額の手帖049

あくまで人間でしかない私に何が出来るのか。夕暮れをカーテンで隠して、世界との繋がりを少しでも減らす。ノノが見上げている。この子は察しがいい。椅子に座るとすかさず膝に乗ってきた。喉を鳴らして癒しを提供してくれる。いっそ猫の国で暮らして、下僕…

#猫額の手帖048

狭くて深い井戸を覗き込むように、向こう側を見た。忘れたい記憶を引きずり出され、気分は最悪だ。美しさは凶器になる。悲しみは狂気になる。人間であることの無力さを突きつけられた。もし彼らが本気で私の意識を迷子にさせていたらと思うとぞっとする。生…

#猫額の手帖047

瞼を開くのに随分と時間がかかった。ひゅっと息を吐いてからゆっくり吸う。肺の奥に酸素が運ばれ、脳へ信号が送られる。自分の体のまわりに幾つかの存在を感じる。愛猫のウクーとノノ、同居人、部屋のブラウニー。光の妖精も居そうだ。大丈夫、目を覚まして…